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【1】乳癌治療の概要
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日本では、乳癌は女性の癌の中で最も多く、
50歳前後をピークに年間約4万人の方が罹患しており、
その数は増加しているといわれています。
また、患者さんのうち3割の方が再発(転移)するといわれています。
乳癌の治療法は、手術、放射線、薬物によりますが、
このうち薬物療法にはホルモン療法、
化学療法(抗癌剤、分子標的治療薬)があり、
疾患の進行度、また術前術後などにより、
様々な薬剤が組み合わされて投与されます。
新しい薬剤も次々と導入されていますが、
本年2月に、新たにゲムシタビンが適応の拡大で承認されました。
『参考文献:【IFB_089】』
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【2】ゲムシタビンについて
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ゲムシタビンはデオキシシチジンの誘導体で、
ヌクレオシド系代謝拮抗剤です。
細胞内でヌクレオチドである二リン酸及び三リン酸化合物に代謝され、
乳癌DNA複製を阻害する働きがあります。
『参考文献:【IFB_090】』
広範な抗腫瘍活性を持ち、抗癌剤として幅広く使用されています。
1995年に開発されて以来、
非小細胞肺癌(1999)、膵臓癌(2001)、胆道癌(2006)、尿路上皮癌(2008)
とその適用を拡大してきました。
乳癌では、2003年にフィンランドで承認されて以来
2009年の時点で100カ国以上で承認されています。
日本では、未承認薬として一部使用されてきました。
今回の承認を受けて、乳癌診療ガイドラインでも、
2007年版では保険適応外として紹介されてきたものを、
2010年版では三次以降の化学療法剤として推奨しています。
中でも、ホルモン療法に感受性がなく、HER-2陰性で、
いわゆるTriple Negativeと呼ばれる状況では、
重要な治療薬と位置づけられています。
『参考文献:【IFB_091】~【IFB_093】』
乳癌診療ガイドラインできちんと取り上げられるには、
エビデンス(科学的根拠)の確立という過程があります。
抗癌剤の場合、多剤併用が試みられることが多く、
単剤より効果の上がる場合が多いことから、
様々な組み合わせでの臨床試験が行われています。
中でも2005年に行われた
パクリタクセル単剤とパクリタクセル+ゲムシタビンの比較を行った
ランダム化比較試験では、後者の効果が上回ることが示され、
米国でFDAの認可を受ける根拠ともなりました。
『参考文献:【IFB_094】』
また日本国内でも第II相の臨床試験が実施されており、
2010年3月に終了しています。
(Clinicaltrials.gov 臨床試験番号NCT00334802『参考文献:【IFB_095】』
およびNCT00191269『参考文献:【IFB_096】』)
またその症例も報告されています。
『参考文献:【IFB_097】~【IFB_100】』
近年、さらにTriple Negativeの症例に対して、
Gemcitabine+Carboplatinに加えて3剤目としてPARP1阻害剤である
BS201を加えた治療法も出てきています。
『参考文献:【IFB_101】~【IFB_102】』
乳癌では、外科的治療や薬物治療の一次治療で奏功せず、
転移性に再発した場合には治療が困難となる場合も多く、
できるだけ長期にわたり患者さんのQOLを維持しながら
過ごしてもらうことが課題となっています。
こうしたケースでは、より延命効果の高い薬剤の選択が
おこなわれることになりますが、こうした三次以降の薬物療法に、
抗癌剤としてのスペクトルの広いゲムシタビンが
選択肢の一つとして登場したことは歓迎されています。
ゲムシタビンによる乳癌の三次治療