現在日本には、急性や慢性の心不全を併せて160万人~250万人の
患者さんがいるといわれています。
心不全は心筋の収縮力が低下している状態で、
その結果血流量が増加し体液の貯留をきたします。
このため全身うっ血状態となり、特に下肢に浮腫が出ます。
いわゆるむくみといわれるものです。
心不全の治療には、心筋の機能低下を改善するために強心剤である
ジギタリスなどが使われるだけではなく、
浮腫を改善するために利尿剤が用いられます。
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【1】トルバプタン(Tolvaptan)
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トルバプタンは、抗利尿ホルモンであるバソプレシンV2受容体への
結合を選択的に阻害することによって利尿する作用があります。
心不全により体液貯留が発生すると、体の電解質バランスが崩れ、
特に低ナトリウム血症が起きやすくなりますが、トルバプタンは
体内の過剰な水分のみを排泄する「水利尿」剤であり、利尿剤として
よく用いられるループ利尿剤であまり効果のない場合や、
それらと併用して用いることができます。
『参考文献:【IFI_045】~【IFI_050】』
2009年5月に米国でSIADH(抗利尿ホルモン不適切分泌症候群)の
治療薬として承認され、同年8月には欧州で承認されています。
その後世界の31ヶ国で承認されています。
日本では、2010年10月に、ループ利尿薬等の他の利尿薬で
効果不十分な心不全における体内貯留に対する利尿剤として承認されました。
(医薬品医療機器総合機構承認情報 http://bit.ly/iMZPDo)
また、日本循環器学会の「慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)」では、
2005年版に「純粋な水利尿を促進し、電解質異常やRAA系の賦活化を来しにくい
バソプレッシン阻害薬が使用可能である。」という一文が付け加えられました。
(日本循環器学会ホームページ http://bit.ly/kxHMXf)
これらの根拠となったのがEVEREST試験です。
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【2】 EVEREST試験およびその後の日本での臨床試験
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EVEREST試験は、慢性心不全患者に対するトラバプタンの効果を
調べるための、多国籍、多施設によるプラセボを対照とした
二重盲検試験で、2003年から2006年にかけて行われました。
(ClinicalTrials.govの治験番号 NCT00071331)
その結果は、体重減少、浮腫、呼吸状態の改善の度合いが
トラバプタン群で有意に優っていた、というものでした。
しかしながら、これは短期の場合で、長期投与については
有意な差は見られませんでした。
『参考文献:【IFI_051】~【IFI_054】』
日本国内でもプラセボを対照とした二重盲検試験が、
2007年から2009年にかけて実施されており、
2009年の日本循環器学会でトルバプタンが血圧や電解質に
異常を来すことなく、安全に浮腫を改善することができた、
と発表されています。
(ClinicalTrials.govの治験番号
NCT00462670, NCT00525265, NCT0544869)
『参考文献:【IFI_055】~【IFI_056】』
しかしながら長期投与の有効性が示されていないなどのことから、
「特に長期間にわたる低ナトリウム血症の患者に対しては、
慎重な治療と注意深い電解質のモニタリングが重要である」との
指摘もあります。
『参考文献:【IFI_057】』
心不全の利尿剤 トルバプタン