多発性骨髄腫は、免疫グロブリンを産生する形質細胞が腫瘍化し
増殖する血液がんの一種です。
CRAB症候と呼ばれる高カルシウム血症、腎不全、貧血、骨損傷などを
主たる症状とした多様な症状を伴います。
罹患率は、日本では10万人あたり3.5人/年と推定されており、欧米よりは
少ないのですが、高齢者に多く、男性よりは女性がやや多いのも特徴です。
『参考文献:【IFI_094】』
近年、サリドマイドを始めとするいくつかの治療薬が日本で承認され、
新たな治療法の展開として注目されています。
『参考文献:【IFI_095】』
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【1】サリドマイド(Thalidomide)
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サリドマイドの薬理作用は、未だ完全には解明されてはいませんが、
骨髄腫細胞に対する直接的なアポトーシス誘導や、
骨髄間質細胞上の接着因子の低下による骨髄腫瘍細胞との相互作用の抑制、
VEGFやTNF-αなどの各種サイトカインの抑制、T細胞・NK細胞への
作用による抗骨髄腫免疫の活性化などが知られています。
またそれらによる血管新生の抑制作用も知られています。
『参考文献:【IFI_096】~【IFI_098】』
サリドマイドは、1957年に鎮静・睡眠薬として発売されましたが、
1960年代初頭に、催奇形性のあることがわかり、日本でも千人に及ぶ
患者が出るなど、不幸な転帰を迎え発売が中止されました。
その後、1994年に血管新生抑制作用が確認され、
癌の治療薬として再登場しました。
1999年には再発・難治性の多発性骨髄腫治療薬としての有効性が示されました。
『参考文献:【IFI_099】』
これに先立つ1997年にアーカンソー州立大学に入院治療中であった患者の妻が、
自分自身で文献を調べ、サリドマイドの抗腫瘍効果に気づき、
担当医にその使用を申し出たのがきっかけであったという逸話も残されています。
『参考文献:【IFI_100】』
日本でも2008年10月に、再発または難治性骨髄腫治療薬として
承認されています。
欧米では初期治療薬として標準的に使用されていますが、
日本では再発後の予後が短いなどの理由から、まだ初期治療では使用されません。
ただ、移植後の維持療法としては効果が認められており、
『参考文献:【IFI_101】』
特に地固め療法としてはボルテゾミブとの併用療法が
効果的であるとされています。
『参考文献:【IFI_102】~【IFI_104】』
サリドマイドの持つ催奇形性を防ぐため、
その使用には細心の注意がはらわれています。
TERMS(thalidomide education and risk management system)と呼ばれる
管理システムが用いられ、胎児に対するサリドマイドの暴露を防ぐ努力が
なされています。
例えば、サリドマイドを使用出来る医療機関は、原則として
日本血液学会研修施設に登録されている施設であり、
使用できる医師も決められています。
『参考文献:【IFI_105】~【IFI_106】』
多発性骨髄腫はこれまで治癒困難な造血器腫瘍と考えられてきましたが、
新規薬剤の使用により、完全寛解への道が開け、
治癒を目的とする治療が行われるようになってきました。
『参考文献:【IFI_102】【IFI_107】』
しかしながら、現状ではまだ生存期間の延長が当面の目標となっています。
また、分子レベルでの発症のメカニズムも解明されつつありますので、
どの段階でどのような治療を行うべきであるのかということも
次第に明らかになってきています。
多発性骨髄腫のサリドマイドによる治療