乳癌の患者さんは、日本には5万人程度いるとされ、
2008年の死亡者数は11,000人で増加の傾向が見られます。
再発率も高く、5年生存率も36%とされており、
大変悪性度の高い腫瘍であるといえます。
基本的には外科治療が適用されますが、
その前後に化学療法が行われるのが一般的な治療です。
再発の治療に際しては、化学療法が中心に検討されますが、
これまではタキサン系の薬剤が用いられていました。
この程、タキサン系の薬剤とは異なる薬理作用を持った薬剤である
エリブリン(エリブリンメシル酸塩)が日本でも承認され、
化学療法の選択肢が増えました。
◆ エリブリン(Eribulin)
エリブリンは、海綿動物であるクロイソカイメンより抽出された
ハリコドリンBの類縁体です。
癌細胞の微小管の伸長(重合)を阻害し、
細胞分裂を阻止しアポトーシスを招きます。
タキサン系の薬剤が微小管の重合を促進し、
アポトーシスを誘導したのとは異なった作用を示しています。
『参考文献:【IFI_162】~【IFI_163】』
エリブリンと従来治療(TPC : treatment of physician’s choice)との比較を
行った大規模臨床試験である
EMBRACE試験(第III相試験)が行われています。
この臨床試験では、従来使用されてきているアントラサイクリン、
タキサン系の薬剤等少なくとも2種類の薬剤による
治療歴のある、
局所再発・転移乳癌の患者762名での効果が検証されています。
この結果、2.5ヶ月の延命効果が示されました。
『参考文献:【IFI_164】~【IFI_165】』
これにより、2010年3月に欧米と日本で同時に承認申請が出されました。
米国では2010年11月にFDAで承認されています。
日本では第II相試験が実施され
『参考文献:【IFI_166】~【IFI_167】』、
その結果も踏まえて2011年4月に承認、
7月より薬価収載により発売されています。
詳しい承認情報は医薬品医療機器総合機構のホームページで
見ることができます。『参照:http://bit.ly/ubo7cz』
承認された内容は、手術不能又は再発乳癌に対する治療で、
投与方法としては、週に一度2~5分かけて静脈内に注射し、
これを2週繰り返し3週目は休む、というサイクルで行います。
『参考文献:【IFI_168】』
治療時間が短いなど、患者さんのQOLにとっても有益であり、
またプレメディケーションを必要としないなどもメリットもあります。
『参考文献:【IFI_168】~【IFI_169】』
日本での発売を受けて、
「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン I 治療編 2011年版」
(日本乳癌学会編 金原出版)では、
2010年版を改訂し、
三次以降の化学療法の項目に新たにエリブリンが一剤追加されました。
転移性の再発乳癌では、患者さんの延命とQOLの維持を中心として
その治療法が検討されますが、
従来のタキサン系の薬剤に加えて、
異なる薬理作用を持つエリブリンが選択肢として追加されたことは
喜ばしいことです。