腎細胞癌は、尿細管細胞由来で、
腎臓を原発とする腫瘍の85-90%を占めています。
患者数は年々増加の傾向にあり、2002年の腎癌研究会の調査では、
患者数が全国で7437人とされていますが、転移性の癌では特に予後が悪く、
5年生存率は20%前後です。
初期の段階で発見された場合には手術による摘出が原則ですが、
その後再発や転移があった場合には、薬物療法が行われます。
第一選択薬はインターフェロンなどのサイトカインですが、奏功率が悪く、
その後にはスニチニブやソラフェニブなど、最近日本でも承認された
チロシンキナーゼ阻害薬が用いられます。
しかし、これらの二次薬剤も耐性が起こりやすく、
mTOR(Mammalian Target of rapamycin)阻害薬が登場してきました。
その一つがエベロリムスです。
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◆ エベロリムス(Everolimus)
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エベロリムスはラパマイシンの誘導体ですが、
ラパマイシンはイースター島の土壌から発見された放線菌が産生する
マクロライド系抗生物質であり、最初は抗真菌薬として研究されはじめました。
その後、タクロリムスと構造が似ていることから免疫抑制剤としての
研究が進み、臓器移植後の免疫抑制剤として認められるようになりました。
『参考文献:【IFI_184】~【IFI_185】』
エベロリムスはmTORの一種です。
mTORは癌細胞の増殖や血管新生に関わる調節因子ですが、
エベロリムスはこのmTORを選択的に阻害し、その上位にあるPI3K-Akt経路の
活性化を阻害し癌細胞の増殖を抑制します。同時に血管新生も阻害します。
『参考文献:【IFI_186】~【IFI_187】』
進行性や再発の腎細胞癌に対するエベロリムスの効果については、
すでにRECORD-1と名付けられた大規模な臨床試験が行われ、
その結果エベロリムス群は対照であるプラセボ群に対して、
無増悪生存期間の中央値で大きく上回り、中間解析で効果が明らかとなり
試験が中止されたという経緯もあります。
『参考文献:【IFI_188】~【IFI_189】』
またこの試験には日本からも参加しており、
そのサブ解析でも同様の結果が出ています。
『参考文献:【IFI_190】』
これを受けて、2009年3月に米国で、8月に欧州で承認されるなど、
世界の45カ国ほどで承認されています。
日本では2007年に「心臓移植後の拒絶反応抑制」で承認されていますが、
2010年1月に「根治切除不能もしくは転移性腎細胞癌」を対象として
承認されています。
(医薬品医療機器総合機構承認情報 http://bit.ly/Ky19c7)
これにより腎細胞癌の二次治療の選択肢が増加し、
「腎癌診療ガイドライン2011年版」(金原出版)でも、
「血管新生阻害無効例に対して、mTOR阻害薬による
二次治療で無増悪生存期間延長が期待できる」として
推奨度B(エビデンスがあり、実施するよう推奨する)
で記載されています。
腎細胞癌の一連の治療の中でのエベロリムスの役割などは、
多くの報告が出ていますが、『参考文献:【IFI_191】~【IFI_192】』
総合的に検討された座談会の記事もあります。
『参考文献:【IFI_193】~【IFI_194】』
一方で、術前の腫瘍縮小効果は期待できないとする報告もあります。
『参考文献:【IFI_195】』
また、チロシンキナーゼなどの耐性症例で使用されるのですが、
さらにエベロリムスにも耐性が生じる場合があります。
そうした場合には、スニチニブやソラフェニブを再度使用することも
行われています。『参考文献:【IFI_196】~【IFI_197】』
なお、初期治療としてベバシズマブとの併用効果をインターフェロンと
比較したRECORD-2試験(ClinicalTrial.gov登録番号NCT00719264)や、
スニチニブと比較したRECORD-3試験
(ClinicalTrial.gov登録番号NCT00903175)などの第III相試験、
『参考文献:【IFI_198】』
さらに二次治療についての第II相試験RECORD-4
(ClinicalTrial.gov登録番号NCT01491672)も行われており、
エベロリムスは将来性のある薬剤といえます。
腎細胞癌に対する経口分子標的治療薬エベロリムス