多発性硬化症は、脳や脊髄に自己のリンパ球が浸潤し、
神経組織の炎症と神経細胞の軸索を覆っている髄鞘からの
脱髄をきたす自己免疫疾患とされています。
感覚障害、視神経炎、運動麻痺などを引き起こします。
欧米では患者数の多い疾患ですが、国内ではおよそ14000人の
患者がいるといわれ、厚生労働省の特定疾患に指定されています。
いくつかある型の中で、再発寛解型が多く、再発の予防が大きな課題です。
『参考文献:【IFI_170】』
近年患者数は増加傾向にあると言われ、その原因として欧米型の
ライフスタイルなどが考えられます。
『参考文献:【IFI_171】』
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◆ フィンゴリモド(Fingolimod)(FTY720)
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寛解と再発を繰り返す病態では、再発の予防が重要な治療法ですが、
これまでは主としてインターフェロンβ製剤が用いられてきました。
これは患者の自己注射によるものでしたが、1日1回の経口投与が可能な薬剤が
登場してきたため、患者さんにとっても予防的治療が容易になってきました。
フィンゴリモドはリンパ球上のスフィンゴシン1―リン酸受容体を阻害し、
末梢血液中のリンパ球、特にTリンパ球数を低下させることによって
免疫抑制を行います。
リンパ球の中枢神経への浸潤が阻害され神経の炎症が抑制される訳です。
『参考文献:【IFI_172】~【IFI_175】』
京都大学で冬虫夏草から発見され、現在でも日本の製薬企業が
特許を所有している国産の薬剤です。
冬虫夏草の一種であるIsaria Sinclairiiの培養液から単離され、
免疫抑制効果が発見されました。
『参考文献:【IFI_176】』
現在はIsaria Sinclairii由来の物質であるマイリオシン(Myriocin)の
構造変換によって化学合成されています。
当初腎臓移植後の拒絶反応を抑制する目的で開発されましたが、
効果が見られず開発は中止されていました。
しかしながら、多発性硬化症への免疫抑制治療が動物実験においても
確認され『参考文献:【IFI_177】』、
欧米で大規模な臨床試験が実施されました。
その結果プラセボに対して年間で再発率を50%低下させたと
報告されています(ClinicalTrials.gov登録番号 NCT00234540)。
『参考文献:【IFI_178】』
2009年に終了したプラセボを対照としたFREEDOMS試験、
『参考文献:【IFI_179】』
およびインターフェロンβと比較したTRANSFORMS試験
『参考文献:【IFI_180】』
でも同様な結果が報告されています。
『参考文献:【IFI_181】』
日本でも第II相試験が行われ『参考文献:【IFI_182】』、
2010年に終了した試験では171症例を対象として年間再発率が
プラセボ群と比較して49%減少したと報告されています。
結果はまだ論文とはなっておらず、ウエッブページでのみ
見ることができます。(http://bit.ly/IFijkK)
(ClinicalTrials.gov登録番号NCT00537082)
またその後、拡大試験も実施されており、2012年4月に終了しています。
(ClinicalTrials.gov登録番号NCT00670449)
これらの結果から、2010年にロシアで承認されたのをはじめ、
欧米各国で承認され、現在世界の50ヶ国以上で承認されています。
日本でも2011年9月に「多発性硬化症の再発予防および身体的障害の
進行抑制に対する有効性」が認められ製造承認されています。
(医薬品医療機器総合機構承認情報 http://bit.ly/JDnxS6)
このように、フィンゴリモドの効果は、投与が容易であることも含めて
証明されていると言えるでしょう。
一方で、適応条件を考慮し、一次選択薬ではなくインターフェロンβ後の
二次選択薬と考えるべきであるとする意見もあります。
『参考文献:【IFI_183】』
経口多発性硬化症治療薬 フィンゴリモド