厚生労働省の人口動態統計によると、肺癌による死者は
2008年で66,847人、2009年では67,583人と増加の傾向にあり、
死亡率では胃癌などを抜いて第一位となっています。
肺癌の中で非小細胞肺癌は全体の80%程度を占めています。
肺癌は早期診断が難しく、進行し手術が不適応となった場合には
化学療法が行われます。
1990年代以降では第三世代の抗癌剤であるパクリタキセルなどと
シスプラチンなどのプラチナ製剤の併用療法が一般的な化学療法ですが、
5年生存率が5%程度と予後の極めて悪い疾患であるといえます。
こうした中で、ここ5年程で分子標的治療薬が急速に開発され、
中でもクリゾチニブはいち早く国内でも承認され、
新規薬剤としての期待の高さが伺えます。
-------------------------------
◆ クリゾチニブ(Crizotinib)
-------------------------------
クリゾチニブは受容体型チロシンキナーゼである
未分化リンパ種キナーゼ(ALK)の阻害剤です。
2007年、日本人によりEML4とALK遺伝子が融合すると
特殊な活性を持つ酵素を作り細胞の癌化を促進することが報告されました。
『参考文献:【IFI_199】』
従って、このALKの活性を阻害することにより抗癌作用を示す
薬剤が開発されたのです。
クリゾチニブは、当初は別のチロシンキナーゼの阻害薬とし
開発されましたが、ALKの活性を阻害する作用のあることがわかりました。
『参考文献:【IFI_200】~【IFI_202】』
非小細胞肺癌のうちALKが陽性でクリゾチニブによる治療の対象となるのは
全体の3~5%程度ですが、若年でたばこをすわない人の割合が比較的高いと
されており、40歳以上の肺腺癌患者では15%に見られるといわれています。
『参考文献:【IFI_203】』
クリゾチニブは、日米をはじめとして国際共同で開発された点でも
ユニークです。
それも、多くの薬剤が第III相試験の結果を待って
各国が承認してゆくのですが、本剤は第I相もしくは第II相試験をもって
承認を受けている点でもユニークです。
また、日本で臨床試験が開始される前に韓国で開始された試験に、
日本人患者として参加した例が報告されています。
『参考文献:【IFI_204】~【IFI_205】』
それほど新規薬剤の登場が待たれていたのです。
日本も参加した大規模な国際多施設臨床試験
(第I相から後にコホート研究へ)は2006年に開始されました。
(ClinicalTrials.gov登録番号 NCT00585195)
『参考文献:【IFI_206】』
第I相とはいえ1500人の患者さんが参加したこの試験の結果は、
クリゾチニブ250mgを1日2回投与を28日を1サイクルとして
6.4ヶ月の時点での奏功率は57%でした。
この結果を受けて、2008年8月には米国および韓国で承認されました。
この試験での日本人参加者(15人)のサブ解析も行われていますが、
そこでの奏功率は93.3%でした。
『参考文献:【IFI_207】』
この結果は大変注目され、『参考文献:【IFI_208】~【IFI_210】』
日本でも2012年3月に「ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・
再発非小細胞肺がん」を適用として承認され、5月29日に薬価収載されました。
(医薬品医療機器総合機構承認情報 http://bit.ly/LhIJe5)
現在でも臨床試験は継続されており、米国はもとより日本でも
2013年12月を終了予定として第III相の試験が実施されています。
(医薬情報センター臨床試験情報番号 JapicCTI-111463
ClinicalTrials.gov登録番号 CNT01154140)
どのような薬剤にも共通するのですが、クリゾチニブにおいてもやはり
薬剤耐性が問題となっています。
『参考文献:【IFI_211】~【IFI_213】』
また、重篤な間質性肺炎や肝不全などが報告されているため、
厚生労働省より注意喚起が出されています。
(http://bit.ly/LHoaqg)
しかしながら、新規薬剤としての期待は高く、現在日本肺癌学会の
「肺癌診療ガイドライン(2010年版)」(http://bit.ly/d18kBU)には
クリゾチニブの記載はありませんが、次回の改訂では掲載されるものと
思われます。
ALK陽性非小細胞肺癌の分子標的治療薬 クリゾチニブ